…言葉を失った…。
瞳孔は開き、開いた口が塞がらない。恐怖で涙目になる。
息が詰まりそうだ…。

振り返った窓の外には、真っ黒なコートを身にまとった男が眉間から血を垂らしたたずんでいた。
細身の顔に顎髭を垂らし、瞳孔まで開き充血した目で室内の男を見下していた。
男は必死に動こうと、力を振り絞って地面を這ずりながら扉に向かった。
部屋の半分まできた時、時間差の轟音が地鳴りのように響き渡った。…と同時に音をかき消されて窓ガラスが粉々に砕けた。
足音もなく、顎髭の男が室内に入り込み男の方へゆっくりと近づく。
男は、無我夢中で何が何やらわからなくなり、とにかく逃れたい一新で声にならない喘ぎ声をはきながら安楽椅子にしがみついた。
影が段々と大きくなり、迫ってくる…。
足が震え、うまく歩けない。