本気で盛り上がってる閖亜先輩。そんなにすごくはないけれどなんて思う。それでも私のドラムが誰かの心を揺るがす限り、私はスティックを手放さないだろう。竜矢のように、ドラムの良さを伝えていきたい。私はドラムが大好きだから。桜の舞い散る4月に付き合いだして、7月の夏祭りの頃、この世を去った元彼。私は何も学ばなかったわけじゃない。ロック、ファンク、スウィング、ディスコ。それぞれの良さ、叩き方、たくさんの事を竜矢に教えてもらった。全部、教えてもらったこと、忘れてないよ。私が本格的にドラマーを夢見るきっかけを竜矢はくれたから。あの日、私の心を揺るがして、今も私の心の中に流れるあの曲を、今、貴方に届けたい。
「閖亜先輩、今までありがとうございました。そして…。」
そこで一度言葉をくぎる。振り向いた私の2つ結びが揺れる。そして、今まで閖亜先輩に見せた笑顔の中で最高の笑顔で、
「閖亜先輩のこと、大好きです♡」
後ろで手を組んでそう伝えた。私、白皇学園女子高等学校ダンス部に出逢えて良かった。閖亜先輩に出逢えて良かった。竜矢に出逢えて良かった。ドラムに出逢えて良かった。
桜舞い散る春の日も、
夏祭りのある夏の日も、
落ち葉舞い落ちる秋の日も、
粉雪降り注ぐ冬の日も、
私は貴方をずっと覚えています。貴方の愛したロックドラムを後世に伝えついきます。今、私の隣には、きっと笑顔の竜矢がいる。優しく、儚げな笑顔の竜矢が。
MDを渡してから一週間後。私の手にはペンが握られている。机の上には400字詰めの原稿用紙。マス目と格闘しながら書き進めていく。自然に囲まれた土地で、一人はしゃぐ私。海の水はまだちょっぴし冷たくて。

見上げたのは、ただ一面に広がる『蒼穹の碧』だった。