私は今、閖亜先輩のクラスの前にいる。左手に握られた白いMDと手紙。一応MDの中には得意の『ディスコ・パーティー2』、ファンク、スウィング、そして竜矢の好きだったロックが入っている。
「閖亜~お客さん。」
閖亜先輩のクラスメイトの人が閖亜先輩を呼んでくれる。私いつも通り叩けている?ファンク、途中のフット、間違えてない?スウィング、元々苦手だからぎこちなくなっちゃったりしてない?特にロック。初めてやったから、上手いかどうかも分からないし、レベルがすごぉく高い曲を選んでしまった気がする。自信が無いだけ。ほんのちょびっとの勇気が持てないだけ。そんなありきたりの解答はとっくに出ている。ブランクばかり気にして、叩けないって精神的に追い詰めちゃってるだけ。
「あ、仄佳ちゃん。どしたの?」
閖亜先輩の顔見たら、あたふたしちゃって、上手く言葉がつむげない。ただMDと手紙を渡して「聞いて下さい」って言えば良いだけのことなのに。なのにどうしてだろう。閖亜先輩に出逢えて、変われたと思ってたのに。
「えと、私のドラム、MDに入れてきました。聞いてくれると、う…嬉しいです。」
MDが渡せたら、いつもの私と閖亜先輩で。やったぁって喜ぶ閖亜先輩と、「ロック初めてで自信ないです。」と苦笑いしてた私と。閖亜先輩だって悩むことくらいあると思う。そういう時、私のドラムで元気になって貰えたら、なんて絶対有り得ないことを思う。自惚れってことも分かってはいるんだ。分かってはいるんだけど、自惚れにかけてしまう。私は閖亜先輩の笑顔に助けられてきた。今度は私が、私のドラムが、閖亜先輩を支える番。
「いっぱい入ってる。すごい!!」