夏祭りを来月に控えた梅雨のある日。私がもう名前も思い出せないような級友たちと一緒に乃木坂に、「夏祭りグッツ」を買いに行った時のこと。
私が一人暴走して、楽器屋に入った時、妙に私の心を惹き付けるブルーモデルのドラム(当時、最新モデルで人気NO.1だったモノ)が置いてあるのが目に入った。そのドラムコーナーに、一人背の高い男の人が立っていた。スティックを回す男の人が。私はその男の人の邪魔にならないように、体を小さくして、ブルーモデルのドラムを物欲しそうに眺めていた(かなり営業妨害?)。ものすごく視線を感じてそっちを振り向いたら、笑顔で立っている背の高い男の人と目があった。
「僕は野木竜矢。君、ドラム好きなの?さっきからあのブルーモデル、見てるよね。」
いきなりの自己紹介に戸惑う私。それでも何とか竜矢は私がブルーモデルを見ていたのを知って話しかけてきたことを理解した。その後、二人で洒落たカフェに入り、ドラムを語り合った。竜矢の大好物のレモネードを飲みながら・・。竜矢は私と同い年で、ドラムは3歳の頃からずうっとやっている。昔から、彼がずうっとずうっと愛用しているドラムのヘッドが悪くなったので買いに来たところ、あのブルーモデルを物欲しそうに眺めていた私に会った、とのことだった。
「あ、千倉さん。これ僕のケータイの電話番号とメールアドレス。連絡待ってるね。」
帰ろうとバス乗り場へ向かおうとした彼に、後ろから声をかけた。恥ずかしさに頬を染めながら。
「あ、あの、野木さん。」振り返り首をちょこんと傾ける竜矢。
「仄佳、で良いですから。今日はありがとうございました。」
彼は私を驚いたような目で見ると、また笑顔に戻って、こちらに向かって手を振ってくれた。
「仄佳、また今度ね。連絡待ってるよ。」
「はいっ!」
そう言った彼は、やって来たバスに乗って、いつの間にか見えなくなった。
思い出したように、級友たちに連絡を入れると電話の向こうで彼女らに罵倒語を並べられた。
「もぉ~仄ちゃん、どこ行ってたの?いっつも特攻かけちゃうんだからぁ~。だから彼氏出来ないし、嫌われるんだよ。…駅前で待ってるから合流しよぉ。」