玲美さんも、「アンタのせいで竜矢は死んだの。アンタが全て悪いのよ。竜矢も竜矢よ。アンタみたいなお嬢様でも何でもない平凡な子に、一生を捧げてアンタの心の中にドラムを響かせようとするなんて。」そう言った。
「仄佳ちゃんのせいじゃない!!仄佳ちゃんが自分のせいだって思ってると彼氏悲しむよ。だって仄佳ちゃんにドラム、続けて欲しいから、スティック、渡したんでしょ?諦めたら、だめだよ。そこで終わって良いの?好きなんでしょ?ドラムが。彼氏が。」
突き刺さったトゲが、抜けていくように感じる。閖亜先輩の淀みない言葉に、雪解けを迎えた森中のあの川の流れのように、心が綺麗に洗い流されていく。閖亜先輩の言葉が私を、過ぎ去った私の過去を、流してくれる。
「…聞いてみたいなぁ。仄佳ちゃんのドラム。」
呟いた閖亜先輩の言葉を聞き逃しはしなかった。部活でも、部活を辞めるときも、それ以外でも閖亜先輩にはたくさん迷惑をかけた。だから、今までのお礼をかねて、恩返しにはならないかもしれないけど、閖亜先輩に私のドラムを聞かせたい。閖亜先輩を私でいっぱいにしたい。私の中が竜矢と竜矢のドラムでいっぱいなのと、同じように。
「あの…もう一つだけ、お願い聞いてもらって良いですか…?不躾なのは、わかってるんですけど。」
ぴくんっと可愛らしく反応した閖亜先輩。
「私のドラム、MD に入れるんで、聞いてもらっても良いですか?閖亜先輩の卒業までに何とかするんで、お願いします!!閖亜先輩に、聞いて欲しいんです。」
「ん…良いよ。」
可愛らしく笑った閖亜先輩。その笑顔はどことなく竜矢に似ていた。ロックドラムに座った、あの日の竜矢に。学園からの帰り道、私は閖亜先輩の隣に立つ。
「えへへ…閖亜先輩のお隣です♡」
「ふふ。」
私の隣の閖亜先輩は、竜矢と重なって見えた。優しいとことか、温かいところ、似すぎているほど似ている。だからきっと、閖亜先輩のダンスに魅せられたんだと思う。あの温かさが近くに欲しい、あの先輩と3年間で肩を並べられるくらいにダンスが上手くなりたい、そう思えたんだって今、思う。竜矢に心惹かれた理由も同じようなものだから。
私、白皇学園女子高等学校ダンス部に出会って良かった。竜矢と閖亜先輩に出会えて良かった。
「…何かあったら言ってね、仄佳ちゃん。」