閖佳の他にもう一人、ちゃんと最後まで話を聞いてくれた先輩がいた。その先輩は三城閖亜、という名前のダンス部の先輩さん。可愛くて、優しくて、ダンスがすごく上手い。閖亜先輩のダンスを見て、ダンス部に入ろうって思ったし。部活の時に着てる薄めのピンクのTシャツが、それまたよく似合う。6月の体育祭打ち上げの時に撮った写真を送って貰う、という事がきっかけでメールもしたりしている。二人っきりで話した事もあった。竜矢、貴方のことをー。

確かあれは6月初旬ー。
「閖亜先輩、待たせちゃってごめんなさい。」
「良いよー。ここで良いよね?」
そう言って閖亜先輩の教室に入る。閖亜先輩の前に座ると緊張で体が震える。憧れの閖亜先輩と二人っきりという嬉しさと、恥ずかしさが混じり合う。閖亜先輩、貴女は逃げずに最後まで話を聞いてくれますか。
「それで、何があったの?」
閖亜先輩の淀みのない目。それに圧倒され色々て話した。竜矢、貴方とのこと全てを。
「中1の6月に初めて出会ったんです。きっかけは私のかけた特攻でした。乃木坂の楽器屋さんでブルーモデルのドラムを見てたんです。そしたら…。」
うるんでくる目。まだ竜矢の名前も出していないのに。閖亜先輩に「泣かないで」って応援されて、その先を話す。ねぇ、閖亜先輩。私が、特攻かけなきゃ良かったのかな?
私が、あの時好きって告白しなければ良かったのかな?
私が、もっと早くガンに気付いて、入院してって言えば良かったのかな?
私が、ディズニーランドに行きたい、なんて我儘言わなきゃ良かったのかな?
私が…私が…。
「そんなことない!!」
ふいうちのように降りかかる、閖亜先輩の言葉。少し潤んだ瞳。すごく重みがあって、捨てられなかった竜矢のドラムスティック(108A)のように私の心に突き刺さる。
「私が竜矢を死なせたんです。」
「仄佳ちゃんのせいじゃない!!」
私の…せいじゃない、なんて言われたことは今まで無かった。いつも私のせいでって責められて、開いた傷口が塞がらなくて。