飲み物を飲みながら閖佳の現在の立ち位置と話をまとめる。こうして閖佳とまともに話をするのはいつ以来だろうか。確か最後に閖佳と話したのは中3の春の卒業式。

「仄佳ー。いつまで引きずってるの?そうやって殻にこもってばっかじゃ、竜矢くん悲しむよ?!自分のせいだ、自分のせいだって、逃げてばっかじや駄目だと思う。竜矢くんと約束、したんでしょ?『絶対幸せになる!!』って。そんなんじゃ幸せにげるよ!仄佳は幸せになりたくないわけ?幸せになりたいと願うのは、罪なわけ?」
「閖佳は強いよ。最近別れたばっかなのに、引きずる事もなく、真っ直ぐに次の幸せ見てるもんね。閖佳、矢先に飽きてたんでしょ?それと『絶対幸せになる!!』って口で約束したわけじゃないから、無効だと思う…。それに私は神様に幸せになることを認められなかった娘だから、この先、幸せになれることは無いんじゃないかな?」
卒業式当日に恋を語り合って、その時に駄目だしばかりされて。「仄佳は引きずってばっかりで、本っっ当にどうしようもない娘だけど、誰かそんな仄佳を愛してくれるから、信じてみようよ」って閖佳は言っていた。恋人を死なせてしまった女の子を本気で愛する人なんて、この世にいないと思う。少なくとも、私はそう思っている。
たけど、愛は早い者勝ちじゃない。どんな愛にも入り込む隙間が必ずある。だから人は出会いと別れを繰り返す。それはアダムとイブの時代から決まっている、恋愛の掟。
「仄佳はどうして竜矢くんのことしか見ようとしないの?竜矢くんは、仄佳に何を残して逝ったの?結局、後に残るのは、深い悲しみだけじゃない。」
私はずっと竜矢のことしか見てこなかった。他の男性なんて、竜矢ほど好きになれる奴なんていなかった。私には結局、竜矢しかいなかった。他に頼れる男なんて、いなかった。だから、あの日以来、私に彼氏なんていない。告白されても、ずっと無視してきた。男性を生物と認めたくない私は、何も聞かなかったことにして、無視することしか出来なかった。いや、認めることをしようとしなかっただけなのかもしれない。
「竜矢は私に希望をくれたから…だと思う。竜矢は、私にドラムを、残してくれたよ。閖佳がすごい前向きなんだよ、きっと。」