私、千倉仄佳。
心に傷を負った、儚きドラマー。
「本当にそれで良いの?好きなコト、諦めんの?」
そんな私に、せがむようにスティックを渡す秋川菜穂。しかし私は菜穂の期待に答えることが出来ない。彼女の潤んだ瞳に、私は、映ってはいけない。
答えては、いけない。絶対に。
こうなったのは全て私のせいなのだから。他の誰のせいでもないのだから。
「菜穂。いい加減ムカつく。言ったでしょ。私はもう叩けない・・・。叩いちゃいけないの!」
私の叫びを受け止めるコトが出来る人はいない。この世界をどれだけ探しても。だって、他人は分かっちゃいない。ドラムは感情一つで崩れるってことを。
それがドラマーにとってどれだけいけないことかを。
「仄ちゃんのばか…。」
後ろの菜穂の呟きは耳に入って来ない。私は叩きたくても叩いちゃいけない。
私は人を死なせてしまったから。
私がもっと早く彼の病気のことに気付いてあげることができていれば、彼は死なずに済んだかもしれない。今も私の隣に、いてくれたかもしれない。最も単純明快な答えは、私があの日級友たちと乃木坂に遊びに行かなけれは良かった、ってことだと思う。たしか、あれは中一の6月ー。