「泣いて済まされる問題じゃない!!」
会長が立ち上がったと同時に、隣に座っていた悠河が大きな声を上げた。
「いいかげんにしてください!!」
驚いて見上げると、悠河があたしの手を握ったまま立ち上がる。
「会長。現有栖川のトップに立たれるあなたが、なぜそんな人の心を抉るような言葉を平然と口にできるのです!?」
「悠河!!お前は私を愚弄する気か!?」
「会長が光姫ばかりを責め立てるからです。なぜ全てを光姫のせいにしようとするのですか!?光姫は何も悪くない。子供の誕生を、私たちも心待ちにしていたんです。おそらくそれは、会長以上に」
悠河が紡ぎだす、あたしを思う言葉の数々に、声を上げて泣かずにはいられなかった。
「光姫を四六時中側で守りたい。そう思ったから秘書を続けさせました。それは私の責任です。私たちはいつも一緒に子供を守ってきた。だけどある日、突然子供の心臓の音が聞こえなくなった。その時、光姫がどれだけ取り乱して苦しんでいたか、あなたには光姫の気持ちがお分かりにならないでしょう」
「悠河……もう、いい……」
もうこれ以上あたしのために、立場を悪くしてほしくない。
手を離そうとしたのに、もっともっと強く絡められた。
「光姫の身体も精神も限界に近づいて、母体すら危険な状態に陥った。下手をすれば、光姫だってどうなっていたか分かりません。それに子供を失ってからの光姫は……抜け殻のようで……目を離したら消えてしまいそうで……。男なんて無力です。何もしてやれない、代わってもやれない。オレにできることは、ただ光姫の感情を自由にしてやることだけ。だけど実際は……」
一瞬力が緩んだ悠河の左手に、今度はあたしが強く指を絡ませた。
「悠河……」

