『会長に、美姫の存在を知られてしまった』
美姫のお墓参りで、悠河にそう告げられた。
美姫が有栖川家のお墓に入った以上、いつまでも知られないわけがなかった。
覚悟はできていたつもりだった。
だけど、まさかこんなにすぐに現実になるとは思っていなくて、あたしはさっきから顔を上げられないでいる。
「どういうことか説明してもらおうか」
少し威圧的にも感じる低い声。
怖くて怖くて仕方なくて、膝の上でギューッと握りこぶしを作った。
「なぜこんな大事なことを本家に報告しなかった」
「会長、ですからそれは……」
「言い訳など聞きたくない。光姫さんの懐妊を本家に秘密にする理由がどこにある!!」
会長がバンッとテーブルを叩きつけたせいで、お茶が揺れてこぼれた。
完全に会長の逆鱗に触れてしまっている。
怒りの矛先は、今度はあたしに向けられた。
「光姫さん」
「はい」
「本家にきちんと報告していれば、こんな最悪な結末を迎えることはなかったんじゃないか」
「それは……」
「懐妊を知っていれば、いつまでも悠河の秘書なんかさせなかった。生活だって、本家で面倒を見ることだってできた。光姫さんには子供のことだけを考えてもらっていれば、こんなことには……ッ!!」
バンッと大きな音を立てて、もう一度会長がテーブルを叩く。
今は何も言わない方がいい。
そう思ったあたしと悠河は、手を繋いで静かに耐えた。

