社長専用エレベーターに乗り込むと、藤堂さんがもう一度あたしに言った。
「光姫ちゃんが公私混同したくないって気持ちは立派だと思うけど、弱っている時くらい、悠河に甘えてやってよ。それで悠河の能率も更にアップするから」
「どういう意味だ、それは」
「お前に言ってねぇよ。……光姫ちゃん、さっきも社員の顔見たろ?光姫ちゃんと悠河が夫婦だってことは、今はもう周知の事実。だけど──」
「何ですか?」
藤堂さんの顔が少し曇って、何かよくないことを聞かされる、そんなことを直感的に感じた。
「今だから言えるけど……、悠河と光姫ちゃんの結婚を疑問視してる声が、社内であったみたいなんだ」
それは、あたしが悠河の妻として相応しくないということ……?
確かにあたしは名家の家柄じゃないし、地位も名声もないただの女。
相応しくない……
と言われれば、そうかもしれない。
本来であれば、あたしと悠河が結ばれることなんてなかった。
会長に見初められなければ、悠河は取引先の社長令嬢と結婚して、あたしたちは別々の道を歩んでいたかもしれない。
今となってはそんなこと、考えられないけれど……。

