社内に入るとすぐに、この光景を目にした社員たちが目を見開いて驚いていた。
やっぱり……
社長である悠河に抱かれて出社するなんて、大きな間違いだ……。
そう自己嫌悪に陥っていると、
「え……」
すぐに社員たちの表情が柔い笑顔に変わった。
気のせい?
いつもこのエントランスに漂う張りつめた空気が、払拭された気がする。
受付の女の子2人が、顔を少し赤らめながら、チラチラこちらを見て楽しそうに話していた。
「ねぇ、光姫ちゃん。自分の働いている会社の社長がイケメンで、仕事もキレモノで、その上愛妻家だって知ったらさ、なんか嬉しくならない?」
突然藤堂さんがあたしの顔を覗きこむ。
「お前がオレを誉めたことなんて、今まであったか?」
「いつだってオレはお前を認めてるだろ。ただ言いたくないだけで」
「言えよ、ちゃんとそういう重要なことは」
「なんだお前。今さらオレに誉められたいわけ?」
あーだこーだと、いつものように言い合いを始めた2人を見て、少し懐かしい気持ちを思い出した。
まだそんなに日は経っていないのに、色んなことがあったせいで、遠い過去のように思える。

