旦那様は社長 *②巻*


「あたし……なくしちゃった……一番大切なもの……」


「光姫さん──ッ」


「なくしちゃったの。……あたしの命よりも……大切なもの……」


全てを悟った美海さんが、泣きながら頭を何度も振る。


不思議とあたしは冷静に、そんな美海さんの腕に静かに抱きしめられていた。


ああ……

あたしの代わりに泣いてくれる人がいる。

あたしを、美姫を思って泣いてくれる人がいる。


その優しく美しい涙が、あたしの渇いた心を少しずつ潤していく。


あたしは……

こうしてほしかったんだ。

悠河にも……。


一緒に泣いてほしかった。

抱きしめあって。

慰めあって。

たくさんのキスをして。


ただ慰められたかったわけじゃない。

あたしも悠河を、悠河の傷ついた心を、癒してあげたかった。


あたしを癒せるのが悠河だけのように、

傷ついた悠河を癒せるのもあたしだけだから。


だって、それが夫婦でしょう?


美姫を失った哀しみと。

悠河の心の痛みが手に取るように分かるのに、感情を押し殺させることしかできない自分の非力さに、涙が止まらなかった。