旦那様は社長 *②巻*


悠河の顔は見られなかったけれど、タイミングよくそこで「ポーン♪」とエレベーターが5階を告げた。


「ごめんね。ワガママ言って。……冗談だよ」


エレベーターが開き、もう見慣れた5階の景色が目に入った時、覚悟を決めた。


……なのに。


悠河は一歩も動こうとせず、エレベーターはまた閉じられてしまう。


「悠河?」

「見るな」

「え……ッ」


まるで自分の顔を隠すように、悠河はあたしの唇を強く塞いだ。


優しいキスじゃない。

感情を露にしたような、激しいキス。


「……んッ」


隙間をわって流れ込んでくる舌が絡みつく。


悠河……?


やっと唇が離れたら、今度は強く抱き締められて悠河はあたしの首筋に顔をうずめた。


「悠河……」


力なく悠河の頭を包み込む。

すると、悠河が初めて弱音をはいた。


「逃げようか。このまま」

「え?」



「なんてな」


顔を上げた悠河は、もういつもの悠河だった。


だけど今の言葉は……


「怖いの?悠河も」