悠河の顔は見られなかったけれど、タイミングよくそこで「ポーン♪」とエレベーターが5階を告げた。
「ごめんね。ワガママ言って。……冗談だよ」
エレベーターが開き、もう見慣れた5階の景色が目に入った時、覚悟を決めた。
……なのに。
悠河は一歩も動こうとせず、エレベーターはまた閉じられてしまう。
「悠河?」
「見るな」
「え……ッ」
まるで自分の顔を隠すように、悠河はあたしの唇を強く塞いだ。
優しいキスじゃない。
感情を露にしたような、激しいキス。
「……んッ」
隙間をわって流れ込んでくる舌が絡みつく。
悠河……?
やっと唇が離れたら、今度は強く抱き締められて悠河はあたしの首筋に顔をうずめた。
「悠河……」
力なく悠河の頭を包み込む。
すると、悠河が初めて弱音をはいた。
「逃げようか。このまま」
「え?」
「なんてな」
顔を上げた悠河は、もういつもの悠河だった。
だけど今の言葉は……
「怖いの?悠河も」

