「美姫、ママじゃ不安?今のママ、美姫のためにご飯も食べられないし。……それとも、美姫を怒らせちゃった?ママ、パパとケンカした時、美姫のこと『生みたくない』って……言っちゃったから……」
次々浮かぶのは、母親失格の言動の数々。
今さら悔いたって仕方ないことだと分かっているけれど、あたしのせいで……
あたしのせいで、赤ちゃんの未来が消えかけている。
「ごめんね、美姫。もうご飯だってちゃんと食べるから。……パパとケンカだってもうしないから。……パパもママも、美姫が生まれてくるの、すっごく楽しみにしてるの」
妊娠が分かった時の悠河の顔はきっと一生忘れない。
ハニかんだように笑っていたけれど、あたしの妊娠を心から喜んでくれていた。
跡継ぎ問題で悩んでいたあたしの心を第一に考えて、『子供はもう少し先でいい』と言ってくれた悠河。
だけど、本心はやっぱり違っていたんだと思う。
赤ちゃんが欲しくてたまらなかったんだと思う。
あの時、あの表情を見てそれがハッキリ分かった。
──ポツポツ。
カーペットに真ん丸い涙のシミが水玉のように生まれ、あっという間にそれが楕円形に広がる。
「お願い、美姫。悠河をパパにしてあげて……。美姫を抱かせてあげて……」
お願い。
悠河の悲しむ顔はもう見たくないの──…
ガッカリさせたくない。
あんなに美姫の誕生を心待ちにしていたのに……
今さら悠河に何て言えばいいの……?

