「いいんですか?」
それまで黙ってあたしと一條社長の会話を見守っていた悠河が、突然口を開いた。
「仕事相手にそんな弱点をさらけ出して」
『弱点』って……。
もちろん悠河は冗談で、笑い混じりに言ったのだけど、それは一條社長には相応しくない言葉。
弱点なんかじゃない。
そう言おうとした時、
「カッコつけるのやめたんです」
一條社長の声が聞こえた。
「さっきも言いましたけど、余裕ないんです。妻に関して言うと」
「一條社長……」
「カッコつけて、本音隠してる間に大事なもの失ったら……何の意味もないですから」
すごく胸がドキドキする。
別にあたしが言われたわけじゃないのに。
さっきまで緊張していたはずが、今この空間がものすごく心地いい。
「美海に捨てられたくないから…。だから、美海に関してだけはカッコ悪くていいんです」
初めて『妻』ではなく『美海』と呼んだ一條社長。
それは、完全に“ただの男”になった瞬間。
こんなにも無防備な一條社長にさせてしまう奥様に、早く会いたくなった。

