旦那様は社長 *②巻*


「いいんですか?」


それまで黙ってあたしと一條社長の会話を見守っていた悠河が、突然口を開いた。


「仕事相手にそんな弱点をさらけ出して」


『弱点』って……。

もちろん悠河は冗談で、笑い混じりに言ったのだけど、それは一條社長には相応しくない言葉。

弱点なんかじゃない。


そう言おうとした時、

「カッコつけるのやめたんです」

一條社長の声が聞こえた。


「さっきも言いましたけど、余裕ないんです。妻に関して言うと」


「一條社長……」


「カッコつけて、本音隠してる間に大事なもの失ったら……何の意味もないですから」


すごく胸がドキドキする。

別にあたしが言われたわけじゃないのに。

さっきまで緊張していたはずが、今この空間がものすごく心地いい。


「美海に捨てられたくないから…。だから、美海に関してだけはカッコ悪くていいんです」


初めて『妻』ではなく『美海』と呼んだ一條社長。

それは、完全に“ただの男”になった瞬間。


こんなにも無防備な一條社長にさせてしまう奥様に、早く会いたくなった。