すっかりこの主役、一條海里社長に見惚れてしまったあたしは、ほとんど無意識にポーッと彼を見つめた。
「光姫。一條社長の奥様と話したかったんだろ?」
不意に耳の奥に届いた悠河の声。
その瞬間、ハッと我に戻ったあたしは慌てて悠河を見上げた。
「あっ…」
悠河の顔はしっかり外の顔だったのに、その瞳の奥の殺気を感じとり、思わず声が漏れた。
『何他の男に見とれてんだよ……この淫乱!!』
そう言われているような気がして勢いよく目を逸らすと
「一條社長。私、奥様と同じ年のようなので、今日ぜひお話したいと思っていたんです!」
一條社長に話しかけて誤魔化した。
だけど誤魔化しきれていないようで、隣からピリピリした空気を、ヒシヒシと全身に感じ続けた。
そんな状況にも関わらず、あたしと言えば、内心少し安心していて。
あたしと悠河の険悪な関係は修復できていないけど、そんな時でもちゃんとヤキモチを焼いてくれたことが、あたしの心を少しだけ温かくしてくれた。
もしかして今ので、少し笑顔が自然なものになったかもしれない。
「あー…妻ですか?さっきまで隣にいたんですが、招待客につかまってしまって…」
「え?」
「目が離せないんです。側にいないと、どこかへ行ってしまう気がして」
少し頬を赤く染めながら、「すみません。ただの男で…」と照れ笑いする一條社長に親近感がわいた。
初対面の相手に、ここまで大胆に自分の奥さんのノロケを言えるなんて…。
聞いているこっちまで恥ずかしくなってしまう。
だけど、ものすごく…
ものすごく…
大きな愛を感じて、さっきよりもっと心が潤った。

