「一條夫妻の写真は見た?」
「はい。大丈夫、ちゃんと顔は頭に入ってます」
「そっか。じゃあ、後は楽しんで!!」
「えっ!?」
この状況をどう楽しめと言うのか、藤堂さんの真意が分からない。
だって今日は…仕事でしょう?
「一條夫妻に会えば分かるよ。奥様は、光姫ちゃんと同い年だから」
「そうなんですか!?」
そういう重要な情報は、もっと早く教えてほしかった。
そうすれば、少しはこの緊張も解れたのに…。
少し恨めしそうに藤堂さんを見上げると、ぶはっと突然吹き出した。
「あーごめんごめん!すっかり言うの忘れちゃって」
「もうーお願いしますよー…」
膨れっ面のまま文句を言いながら会場に一歩足を踏み入れると。
「遅かったじゃないか」
背後からズッシリと重く、明らかにいつもより低い声が聞こえた。

