「光姫ちゃん…光姫ちゃん…」
「んっ…」
誰かに身体を揺すられて、目を擦りながらゆっくり身体を起こした。
「光姫ちゃん、もしかして体調悪いんじゃ……」
心配そうにあたしの背中を支えた藤堂さんが探るように聞いてきた。
「大丈夫ですよ?ちょっと昨日、眠れなくて…。もしかしたら緊張しちゃったのかも!!」
「光姫ちゃん…」
わざとらしいくらい明るく振る舞いながら、「あはは」と笑って体調の悪さを隠した。
今日は“妻”として頑張るって決めたから。
「社長はもう?」
「え?あぁ……」
「そうですか。じゃあ私も」
藤堂さんの歯切れの悪い返事。
たぶん彼は、昨日悠河が帰宅しなかったことを知っている。
もしかしたら、昨日あたしと社長の間にあったいざこざも、もう既に聞いているかもしれない。
藤堂さんにエスコートされながら、あたしはゆっくり車を降りてホテルの中へ入った。
会場となっている『飛天の間』へと足を進める途中、あたしたちは一言も喋らなかった。
それは、事情を知る藤堂さんなりの優しさなんじゃないかと、そう思えてならない。

