けっきょく一睡もできなかったあたしは、貧血と闘いながらドレスに着替え、パーティー会場へ直接向かった。
身体のことを考えると、出席しない方がいいんじゃないかとも思ったけど。
これからの有栖川に大きく関わることになる一條財閥との親交が、どうしても気になってしまう。
社長秘書として…よりも、妻として。
「奥様、少々顔色が悪いようですが…」
社長専用車の運転手をしている瀬戸さんが、バックミラー越しに心配そうにあたしを覗きこんで言った。
「大丈夫です……」
タクシーで行くつもりだったのに、藤堂さんが気をきかせて迎えを頼んでくれたらしい。
その気遣いが悠河じゃなかったんだということが、少し寂しかった。
「引き返しますか?社長もきっと、奥様の身体が心配でしょう」
「ありがとうございます。でも、本当に大丈夫ですから」
車に酔ったのか、悪阻が原因なのか、今にも意識が飛んでしまいそうなほどの強い目眩を覚えて、そのまま静かに目を閉じた。
「少し…寝かせていただきますね…」
その言葉を最後に、意識もすぐになくなった。
この頃にはもう、身体が悲鳴をあげていたのかな…。
悠河とのことばかりに気をとられて、今一番大切な人の声を、あたしは聞き逃してしまったのかもしれない。

