あたしの大好きな悠河は、どこに行っちゃったんだろう?
あまりにもショックが大きかったのか、瞬きすることも忘れて。
涙の堤防も決壊した。
定まらない視点のまま呆然としていたあたしに、悠河は捨て台詞をはいた。
「まぁ、今更別れるつもりなんてねーけど」
「……」
「有栖川の恥をさらすわけにはいかないからな」
それだけ言うと、悠河は振り向くことなく社長室を出ていってしまった。
パタンと閉じられた扉の音が、いつもより大きく耳に響く。
もう、何を言ってもダメなんじゃないかと思った。
今の悠河に、あたしの言葉は何も届かない。
もしかすると、悪化させるだけかもしれない。
―――この日。
悠河は結婚して初めて、朝になってもマンションに戻ってこなかった。
思えば、初めてづくしの1日。
険悪なケンカも。
気持ちの否定も。
外泊も。
“初めて”って、幸せなことばかりじゃないんだ…。
だけど、これからどんどん増えていくのは……
“幸せの”初めてがいいな――…

