旦那様は社長 *②巻*


あたしの大好きな悠河は、どこに行っちゃったんだろう?

あまりにもショックが大きかったのか、瞬きすることも忘れて。

涙の堤防も決壊した。


定まらない視点のまま呆然としていたあたしに、悠河は捨て台詞をはいた。


「まぁ、今更別れるつもりなんてねーけど」


「……」


「有栖川の恥をさらすわけにはいかないからな」


それだけ言うと、悠河は振り向くことなく社長室を出ていってしまった。

パタンと閉じられた扉の音が、いつもより大きく耳に響く。


もう、何を言ってもダメなんじゃないかと思った。

今の悠河に、あたしの言葉は何も届かない。

もしかすると、悪化させるだけかもしれない。



―――この日。

悠河は結婚して初めて、朝になってもマンションに戻ってこなかった。

思えば、初めてづくしの1日。


険悪なケンカも。

気持ちの否定も。

外泊も。


“初めて”って、幸せなことばかりじゃないんだ…。

だけど、これからどんどん増えていくのは……


“幸せの”初めてがいいな――…