「さっきよりいい顔してる。大丈夫、アイツを信じてやって」
「はい。色々ありがとうございました」
ペコッとお辞儀をして、ドアに向かって走り始めると。
「妊婦ッ!走らないッ」
早速注意を受けてしまった。
「ご、ごめんなさい」
と藤堂さんに背を向けたまま叫び、ゆっくりドアを開いた。
ドアを閉める一瞬に見えたのは、ニッコリ微笑み手を振る藤堂さんの姿。
「ありがとうございます」と心の中で何度も繰り返しながら、あたしも笑顔を返した。
ーーー…ありがとう。
藤堂さんに背中を押してもらえなかったら、もっともっとあたしたち、険悪になったかもしれない。
『光姫ちゃんでよかった』
そう言ってくれた藤堂さんにさっきの言葉を訂正させないためにも、ウジウジなんてしてられない。
社長室に近づく度にドキドキが増していくけど、悠河と向き合いたいと思う気持ちが歩みを速める。
さっきは逃げたくて速まったくせに。
社長室の前でフーッと息を吐き、ノックをして返事を聞く前にドアを開けた。
「何だ?まだ用事か?」
あたしの姿を見るなり、さっきと同じ冷たい声で言い放った悠河に怯みそうになりながら。
「話があるの……」
ぎゅっと拳を握り、真っ直ぐ悠河の目を見つめた。

