「アイツが言ったんだ。だから今ものすごーく光姫ちゃんの涙を拭ってあげたいけど、できないんだよね」
「…ぷっ」
あたしの顔の前でプルプル震えている藤堂さんの右手が何だかおかしい。
「大丈夫です。涙くらい自分で拭えますから。でないと、社長の妻なんて務まりませんよ」
「あー…こんなことも言ってたな。『光姫はオレの腕の中で夜しか鳴(泣)かない』って」
「……」
せっかく感動したばかりなのに、今のたった一言で一気に殺意に変わったのが分かった。
「こっちに戻ってから毎日ノロケばっか聞かされてさ。いい加減聞き飽きたよ、オレ」
「あたしは藤堂さんに、何もかも知り尽くされてしまった気分です……」
今の藤堂さんの口調だと、きっと悠河はあたしのことを包み隠さず報告してるんだ。
特に……
“夜”のこととか。
悠河と藤堂さんも似た者同士だし……変態だし。
「ははっ。まぁ、アイツを通して光姫ちゃんがどんな子なのかはだいたい分かったかな」
ーーー…やっぱり。
カメレオンみたいに周りの景色にこのまま溶け込んでしまいたかった。
恥ずかしすぎて、本当に顔から火が出そうなくらい頬が熱かったから。

