去っていく後ろ姿が見えなくなった時、藤堂さんにポンと肩を叩かれた。
「光姫ちゃん、ちょっとむこうで話さない?」
「……はい」
最上階には、社長室ともう1つだけ部屋がある。
その『応接室』では、会長や大切なお客様を招くために使われる特別なお部屋。
和室で『富士の間』という名前の通り、大きな窓からは遠くに富士山がハッキリと見える。
「おー…すげーな、この部屋」
物珍しそうに、藤堂さんがあちこち見回している。
「私もめったにこのお部屋に入ることはありません。だから勝手に入っていいのか……」
「あー大丈夫、大丈夫。すぐ済むから」
相変わらずマイペースな藤堂さんに自然とため息が漏れる。
「で?光姫ちゃんと佐倉って、どういう関係なわけ?」
「どういうって……」
真正面から真剣な顔にのぞき込まれたら、適当に誤魔化しなんてできなかった。
普段とのギャップと少しの後ろめたさから、藤堂さんを直視することができずに俯く。
「何か特別な関係なんじゃないの?」
「……まさか。この前初めて会った、本当にただの同僚です」

