その声に一瞬、敬吾の手もビクッと反応した。

あたしも一気に背筋が凍る。


「何?まさか不倫?」


「ははっ、違いますよ。光姫さんが貧血を起こして倒れられたので、支えただけです」


「ふーん。そうは見えなかったけど」


ゆっくりゆっくり足音が近づいてくる度に、敬吾のジャケットを掴む手に力が入った。

浮気心があったわけではないけれど、一瞬でも敬吾にすがりついてしまったことを今更ながら後悔してしまう。


「光姫さん、もう大丈夫ですか?」


「えっ?ああ、はい。ありがとう。……ごめんなさい」


敬吾のとっさの機転に救われた。

ゆっくりと体を離しながら見上げると、優しい笑みを浮かべる彼と目が合う。

『大丈夫、任せろ』

そう言っている気がした。

「じゃあオレ、これから秘書課に用事があるんで。光姫さんのこと、後は宜しくお願いしますよ藤堂さん」