「お前のこと、どうしても離したくなくて……言えなかった。『別れてくれ』なんて嘘でも……」


「だからあんな書き置きを?」


メモ用紙に書かれた“ごめん”の文字。

あれだけ見たら、誰だって誤解する。“ああ、あたしは捨てられたんだ”って。

言ってくれなきゃ分からない。


「だったらどうして、正直に話してくれなかったの?」


「正直に話したらお前……絶対にオレから離れなかっただろ?」


「……」


「分かってた。お前がどんなにオレを愛してくれていたか。でもな、オレだってお前以上に愛してたんだ。だから、どうしても巻き込みたくなかった。

……もしあの時全てを話して『別れよう』って言っても、絶対にお前はオレについてくると思った。お前はそういう女だって、分かってた……」


今、敬吾はどんな顔をして打ち明けてくれているんだろう?

今のあたしにはもう……何も見えなかった。


真実を知れば知るほど、あの時の自分を責めたくなる。

敬吾はあたしの想いも、何もかも全てお見通しだったんだ。


あたしを巻き込みたくない一心で、1人悪者を演じて。

……それはあたしに未練を持たせないための、敬吾の最後の愛情だったの?


「あたしが前を見て歩いていけるように、わざと突き放した……?」


「いや。もしそうならオレ、光姫の中できっといい男になれただろうな」


「違うの?」


「ああ。そこまで大人にはなれなかったよ」


「敬吾?」


「『別れよう』じゃなく『ごめん』って書き残したのは、お前と完全に別れたくなかったからだ」