もちろん、敬吾だって今だから笑えるんだと思う。
失踪前の数日間は、本当に“心ここにあらず”という感じで、いつも遠くを見ていた敬吾。
きっとあの時、1人で苦しんでいたんだ。
それなのにあたしは……結婚に浮かれてハイになって……大切な人の異変にまったく気づかなかったなんてーーー…
今更悔やんでも、過ぎたことはどうにもできない。
だけど、ずっと敬吾に“裏切られた”“捨てられた”なんて思っていたあたしはバカだ。
そんなこと思う資格なんてない。
単なる被害妄想……
「あたしがあの時……ちゃんと敬吾の異変に気づいていれば……」
「光姫は何も悪くない。何も相談せずオレの一存で決めたことだ」
「でもっ」
「これでよかったんだ。あの後、本当に地獄のような毎日だった。寝る時間さえなくて。
……借金だけじゃない。全従業員の転職先も見つけなきゃいけなかったしな。まるで廃人のようだった、あの時」
「……」
「あの時のオレ見たら、光姫に幻滅されて捨てられてたよ、きっと」

