旦那様は社長 *②巻*



「光姫……心配しなくても、何もしないよ。オレだってバカじゃない。社長の奥さんに手を出すような真似はしないから。

……お前が幸せじゃないなら、連れ去ってやろうと思ったけどな」


そう言うと、敬吾は少し肩を竦めながら、ふっと笑った。


「……分かった、いいよ。食事、付き合う」


これは別に敬吾に未練があるからじゃない。


長い間ずっとトラウマになっていたことは事実だから。


もしかすると、ただの敬吾の言い訳かもしれないけど。


でもさっき耳にした、あたしと別れなければならなかったほどの問題が何なのか。


……それがずっと胸に引っかかっている。


「ただし、変なマネはしないで。さっきも言ったけど、あたしは今幸せなの。

……今の幸せを壊すようなことはしたくない」


「ふっ。分かってるよ。でも……ただ食事するだけだとしても、あの社長が知れば大変な騒ぎになるかもな」


あたしもそのことは少し気にはなるけどーー…


「バカにしないで。いくら悠河でも、食事くらいで怒ったりしないわ」


後で事情を話せば、きっと分かってもらえる。


この時のあたしは簡単に考えていた。


あたしの安易の選択が、再び深い傷を生むきっかけになるなんてーー…


もしも時間を戻せたら。


そう願わずにはいられない。


ーー…今更思ったところで、この悲しみが消えるわけじゃないけど。