旦那様は社長 *②巻*


一瞬強張った体も、敬吾の優しい目に見つめられて、抵抗できなかった。


「光姫……あの時はごめん。でもこれだけは言っとく。オレはお前と結婚したくなくて、お前の側を離れたわけじゃない。

……別れるつもりなんてなかったし、結婚だってしたかった」


長くて細い敬吾の指が、あたしの頬をゆっくりとなぞる。


「でも、あの時はできなかったんだ。あの時のオレじゃあ、光姫を不幸にするだけで幸せになんてできなかったと思う」


「……あたしが幸せかどうかは、敬吾が決めることじゃないでしょ?」


「ああ……でも無理なんだよ、あの時のオレは。重大な問題を抱えていたからな」


「重大な問題?」


さっきまであんなに興奮気味だったあたしは、いつの間にか冷静さを取り戻していた。


そして、敬吾の言う“重大な問題”が心の中で引っかかっていた。


あたしと別れて、結婚すら白紙に戻させるほどの問題が何なのかーー…


「それは今ここでは話せない。今晩、時間作れないか?どこかで食事しよう」


「えっ……」


「確か今日の夕方、社長は接待で藤堂さんが同行する予定だよな?」