一瞬強張った体も、敬吾の優しい目に見つめられて、抵抗できなかった。
「光姫……あの時はごめん。でもこれだけは言っとく。オレはお前と結婚したくなくて、お前の側を離れたわけじゃない。
……別れるつもりなんてなかったし、結婚だってしたかった」
長くて細い敬吾の指が、あたしの頬をゆっくりとなぞる。
「でも、あの時はできなかったんだ。あの時のオレじゃあ、光姫を不幸にするだけで幸せになんてできなかったと思う」
「……あたしが幸せかどうかは、敬吾が決めることじゃないでしょ?」
「ああ……でも無理なんだよ、あの時のオレは。重大な問題を抱えていたからな」
「重大な問題?」
さっきまであんなに興奮気味だったあたしは、いつの間にか冷静さを取り戻していた。
そして、敬吾の言う“重大な問題”が心の中で引っかかっていた。
あたしと別れて、結婚すら白紙に戻させるほどの問題が何なのかーー…
「それは今ここでは話せない。今晩、時間作れないか?どこかで食事しよう」
「えっ……」
「確か今日の夕方、社長は接待で藤堂さんが同行する予定だよな?」

