そしてその日の夜も……敬吾はおかしかった。


『……あっ……もう無理だよ、敬吾』


あたしの言葉なんて、まるで耳に入っていなくて。

無我夢中にあたしを求め続けた敬吾。


……まるで、何かを必死に忘れようとしているかのように。


こんな感情的な敬吾は、初めてだった。


それなのに、この時のあたしは……愛されてる証なんだと勝手に思い込んでーーー……


翌日の朝

隣にいない敬吾と、代わりに置かれた小さなメモ用紙の“ごめん”という3文字。

そして、破り捨てられた婚姻届でーー…


……やっと全てを理解した。


あたしは敬吾に捨てられたんだと。


夕べ、何度もあたしを求めたのは……ただの餞?


それともただ、自分の欲求を満たすため?


何の理由も告げず、いきなりあたしの前から姿を消した敬吾。


『結婚しようって……言ってくれたじゃない』