最初はただの変態爺さんだと思ってた。
……でも実際は違った。
有栖川家の伝統を重んじて、それに反する者を許さない。
だからあたしに「子供を生む気がないなら離婚」……なんて平気で言えるんだ。
子供ができたと分かった今、会長にあれこれと引っ掻き回されたくない。
…ーーあたしの知らない有栖川のしきたりに、惑わされたくない。
「あたしは……あたしのペースで、この子の成長を見守っていきたいよ」
社長は、こんなあたしの気持ちを分かってくれる?
「……お前の好きにしたらいい」
予想外の答えだった。
「お前の不安はもっともだと思う。あの会長だからな……お前の妊娠を知って穏やかでいられるわけがない……曾孫の誕生を待ちわびているから」
「じゃあっ!!」
「ただし……」
あたしの言葉を遮る社長の顔色が、少し曇る。
ギュッ
あたしは更に強く社長の服を握りしめた。

