「お前最近おかしいぞ。オレに隠し事はするな」
「……してないよ?隠し事なんて」
「オレがどれだけお前のこと見てると思ってんだよ……家でも会社でも……24時間ずっと一番近くでお前を見てる。そのオレが、お前の少しの異変も見逃すと思うか?」
なんだかまるで……“お前だけを見てる”
……そう言われているような気分になった。
「オレは、お前が頼れる夫でありたいといつも思ってる。有栖川家の古い確執は、きっとお前を苦しめるし……いつかこの結婚を、お前が後悔する日が来るかもしれない」
“後悔する日”という言葉の後に、あたしの手が更に強く握り締められたのは……きっと気のせいなんかじゃない。
…ーー今分かった。
あたしは自分のことしか考えてなかったんだって。
有栖川家の嫁に相応しいようになろうって、辛いことも全部我慢して抱え込んで……あたし1人だけがこんなに辛いんだって思ってた。
でも……
社長も辛かったんだーーー……
24時間いつも……誰よりもあたしの側にいるのに、あたしが何も言わないことで……きっと不安にさせてた。
今社長が言ってくれたみたいに“頼られたい”って、いつも思ってくれてたんだね?
「……でも、例えお前が後悔しても……オレはしないよ、後悔なんて……絶対に。お前が後悔する日が来たとしたら、それはきっとオレの責任だ。有栖川の重圧なんか跳ね除けるくらい、お前に幸せをやれなかったオレの責任。だからお前……もっとオレにワガママ言え。かっこ悪いけど、ただ側にいるだけじゃお前の望んでることが分からない……」
ふっと、寂しそうに笑う社長を、ギュッと抱きしめたくなった。
この人がこんなにあたしを想ってくれてたこと。
どうしてあたしは今まで気づかなかったんだろうーー…

