先生は胸ポケットから手帳を取り出し、さらさらと何かを書き始め、そのページをビリッと破ってあたしに差し出した。
「これは?」
「今話した産婦人科医の連絡先。1日でも早い方がいいよ…もし違ってると分かれば、光姫ちゃんも安心して元の生活に戻れるんじゃない?」
……本当に…あたしが考えてることなんて、先生には何もかもお見通しなんだ。
あたしが迷ってることも、“今”妊娠を望んでいないこともーー…
「もし……万が一本当に妊娠していたら、今の生活を改めないと…流産しちゃうかもしれない」
「流…産…ですか…」
「今みたいに、肉体的にも精神的にも参った状態を続けると……流産を招くケースは十分考えられる。そうなると…光姫ちゃんの体にも大きな負担だよ…?」
顔を見なくても、声色で分かる。
先生は、あたしの体を気遣って言ってくれてるんだって。
あたしは手の中にある小さなメモを眺めた。
「佐伯…陽子?」
「そう。悠河くんが生まれた時もこの佐伯先生が担当されたんだよ」
「えっ、社長の時も?」
一瞬驚いたあたしは、メモから先生へと視線を移した。
「そうだよ?ベテラン医師だし、きっと母親のように親身に話を聞いてくれるから」

