「ハルの周りの空気だけジメジメしてるんだけど」
「まじだー。うっとおしいね」
「天気もこれなのにハルまでこれだとねー」
百合、瀬南、有美は口々に言う。
外は本格的な梅雨であるかのように、雨が降っている。
窓際のすぐ側に植えてあるアジサイに目を向ければ、カタツムリがちょこんと雨に打たれているのが見えた。
「…だって、わかんないんだもーん」
少しざわついた放課後の教室であたしはポツリと呟く。
とうとうテストも明日からと言うことで、クラスにはラストスパートをかけるようにテスト勉強をしている生徒が居残りをしている。
「わかんないって…景斗くんにわざわざ教えてもらったんでしょ?」
ずるいずるいとその横で有美や瀬南が騒ぐ。
景斗には日曜日だけじゃなくて、その後も何回かお世話になった。
なんだかんだで面倒見のいいやつだし、あたしの英語力を心配してくれているらしい。
そこまで心配されちゃうあたしもどうなんだろうという疑問はあるものの、好意はありがたく受け取るべきだと解釈して教えてもらっていたわけなんだけど。
「そうなんだけど…如何せんあたしの頭はもの覚えが悪いみたいでさー」
目の前にある真っ白なノートに某人気キャラクターの猫型ロボットを落書きしながら百合に返事する。
お?我ながら会心の出来…。
なーんて思っていると百合にバッとノートを取り上げられる。
「あーっ…」
「あーじゃなくて!あたしがヤマ教えてあげたんだからそこの勉強しておきなさいよ」
そう言われて返されたノートにはいきなりノートを取られてしまったせいで歪んだ体型になってしまった猫型ロボットがあたしを見つめかえしてきた。
「はいはい」
ごめんね、と呟くと消しゴムで猫くんとバイバイした。
