先生とあたし(仮)


「はあ…ま、いいや」

槻嶋もドアノブから手を離し、あたしに向き直る。


「で、なに?」


あたしを呼びとめて何の用があると言うのだろう。
身構えつつ、槻嶋の言葉を待つ。


「悠、あいつと付き合ってんの?」

「…は?」

いきなり、しかも真顔であたしにこんなことを聞いてくるから拍子抜けした。

たぶん今のあたしの顔、絶対マヌケ面だと思う。


てゆうか……


「名前で呼んでんな!!」


さっきも『はーるーかーちゃーん』とか言ってたし。


若干、キャラ違くないか?


「で?どうな訳?」

あたしの言葉は無視か。



槻嶋は腕を組んで、壁に寄りかかりながらあたしを見下ろしている。


あたしも小さい方ではないと思うんだけど、こうしてみると槻嶋の身長が大きいということに再び気づかされる。

と、まあそれは置いておいて。



「…関係ないでしょ」


一体あたしと景斗の何を見てそう思ったのかわかんないけど。


でも、なんで槻嶋がそんなことを聞いてくるの?


「お前らさっきも一緒にいただろ。
よく家にも来てるみたいだし?」


は?


「見てたの?」


「帰ってきたら見えたんだよ。
好きで見たわけじゃねえよ」


ストーカーじゃあるまいし、と続けた。


槻嶋はひとつため息をつくと、体を壁から離してクルリとあたしに背を向けて自分の部屋に鍵を差し込む。


「まあ、いいや。
じゃあな」



パタンとドアが閉まり、廊下は静寂に包まれた。


「…なに?今の」


残ったのはあたしの呟きと槻嶋のわけのわからない行動に対する疑問だけだった。