先生とあたし(仮)


あたしがトイレに行っている間に着替えたらしい景斗は、あたしが部屋に戻ってくるとすっかりいつもの景斗になっていた。


「俺が寝てる間にちゃんと勉強してたのかー?」

紅茶を飲みながらあたしの英語の教科書を捲っていた。


「あたしが一人で英語の勉強できると思う?」

紅茶に口をつけると、さっきまで冷めていたはずの紅茶が温かいものに変わっていた。


たぶん景斗が入れなおしてくれたんだろう。


こう見えて、気がきくやつだから。



「ですよねー」


景斗はそう言ってから、こんなにノートと教科書が真っ白じゃね、と付け加えた。


「先生誰?授業くらいちゃんと聞けよ」

「…槻嶋の授業聞いたってわかんないもん」



あたしの口から槻嶋と言う言葉が出てきた途端、景斗の顔が曇る。


「…で?どこがわかんないわけ?」


紅茶の入ったカップをテーブルに置いて、景斗があたしの方に身を乗り出してくる。


「とりあえずここら辺全部」

テスト範囲全部を指して言う。


「は?全部じゃん」

「だってわかんないもんはわかんない」

「……」



景斗がため息をひとつ零すと、ジトッとした目であたしの方をチラリと見た。