「ククク…」
え?
何?
すぐ近くまで迫っていた槻嶋の気配が遠ざかっていく。
おそるおそる目を開けると、あたしからすこし離れたところで口に手を当てて笑いをこらえている槻嶋が目に入ってきた。
「…キスされると思ったのか?」
笑いをひたすら堪えたように聞いてきた槻嶋の言葉にあたしは顔が赤くなるのを感じる。
「…っっ!!」
こいつあたしで遊んでるんだ。
槻嶋があたしの家の玄関で言ったことを思い出した。
「おい、どうなんだよ?」
そう言いながらまたしても近づいて来ようとする。
逃げるなら今しかない!!
幸い足には多少自信があるあたしは、槻嶋を一度睨みつけると荷物を持って準備室から飛び出した。
――――
――
「悠ー」
イライラした気持ちを抱えたまま、昇降口を出て校門に向かって歩いていると、少し遠くからあたしの名前を呼ぶ声が聞こえた。
声の出所はどこかと辺りを見渡すとグランドのフェンス越しに景斗が立って、こっちを見ているのがわかった。
どうやら声の正体は景斗だったみたいだ。
