菜美が柱の陰から覗くと、案の定コートにいたのは君哉だった。一人で黙々とサーブを打っている。

いつからかはわからないが、毎日ここで特訓していたに違いない。



菜美が近くまで行こうとすると、どこからか一人の男がラケットを持って歩いてきた。帽子を深くかぶっていてよく顔が見えない。菜美は急いで柱の影に戻った。

《誰だろう……》



君哉は男に気づくとサーブを打つのを止めた。そして、しばらくなにやら話した後、君哉が打っていたボールを片付け二手に分かれた。


どうやら試合を始めるようだ。柱をつかんでいる菜美の手に思わず力が入った。

帽子の男は強かった。


君哉が上手く打てないのもあるかもしれないが、全く歯が立たない。あんなに早く見えたサーブもことごとく返されていく………。


結局5分ほどで試合は終わった。菜美が見た限り、おそらく1ポイントも取れていない。


君哉は膝をついて、肩で大きく息をしていた。菜美はつい会話が聞こえるところまで近づいていた。


「朝倉 君哉がセレナードに選ばれたって聞いたから来てみたら…なんだこれは。」

近くに来ても男は帽子で顔が見えなかった。

「クソッ……何者だよお前……」


「さぁな。しかしお前がこれじゃあ、アイツも戻ってこれないなぁ…」


「……!?アイツ…だと?」