夢みる蝶は遊飛する


「俺たちには、先輩みたいな全国レベルのプレイヤーの気持ちはわからないです。っていうより理解できるわけがないです。稲垣先輩だってきっと、高橋先輩と全く同じ気持ちではないわけだし」


第一背負っているものが違う、と薄くんは言った。


「高橋先輩が背負ってたのは、全国のバスケプレイヤーの夢でしょう。負けたチームは勝ったチームに夢を託す。最後まで勝ち続けたチームが手にするのは、自分たちの努力の結果だけじゃない。
一番高いところに立ったことがあるなら、それをもうわかってますよね」

「うん、わかってる」


だから、こんなチームに負けて悔しいと思われないように、わたしたちはあらゆる面で、全国一になろうとしていた。

コートマナーを含めた礼儀にあれほど厳しかったのは、超越しているのは技術だけで、他の部分では大したことはないと思われないようにだ。

自分たちより劣っている部分があるチームに負けることほど悔しいことはない。

それがわかっていたから。

自分たちの夢をつないでいった先にいるのは、真実の強さを秘めた者でなければならないのだ。



「でもそう考えると、本当の意味では誰ともわかりあえないっていうことになるよね。私は、みんなと同じことを感じて、同じことで泣いたりしたかった。そういうことに憧れてたの」

どうしていつも、特別になってしまうのだろう。

それは贅沢な悩みだと、疎まれるかもしれない。