「ああ、そんなことも言ったかもしれませんね。よく覚えてないですけど」
照れ隠しなのか、わざと目線を逸らした薄くんは、つまらなさそうな顔を作ってそう言った。
最後の部分、桜井くんが次の代のキャプテンとして薄くんがふさわしいと思っていることは言わなかった。
それは私が言うべきことではないから。
「そう。覚えてないんだ。でも、ありがとう」
何度目かになるお礼を口にした。
「私ね、マネージャーになる時に、条件を出したの」
半年前のあの日を思い出す。
テストの結果を須賀くんと見に行って教室に戻ってくると、桜井くんと舞の姿があったのだ。
懐かしい。
周りにあるなにもかもが自分を傷つけようとしていると思っていたあの頃。
「私がマネージャーになるきっかけは、桜井くんとの賭けだったの。中間テストの順位で私が勝ったら桜井くんがなんでも言うことをきく、私が負けたらマネージャーになるって」
「そんなことで?」
私が自ら望んでマネージャーになったと思っていたらしい薄くんは、ただ純粋に驚いていた。


