学校では、お菓子を持ってくることを禁止されてはいない。
せいぜい、ごみはきちんと片づけるように、授業中には食べないようにと言われている程度だ。
だから明日はきっと学校中が酔うほどのチョコレートの匂いで満たされるだろう。
明日を想像すると、とても心が弾んだ。
二枚だけとっておいたクッキーと、一切れのブラウニーを、貝殻のような形をした小さな皿にのせた。
そしてそれを自室へと持って行き、出窓にある写真立ての前に、そっと置いた。
そこに写っているのは、父と母と、私。
数少ない家族写真の中の一枚だ。
「明日は、大切な人に気持ちを伝える日だから」
お父さん、お母さん、と囁きかけた。
初めてのバレンタイン。
両親に、私の想いは伝わっているだろうか。
ふと、壁に掛けてある時計を見ると、すでに0時を何分か過ぎていた。
もう2月14日だ。


