「それがね、すごく美味しかったの!」
昨夜、バレンタインの練習として作ったクッキーの感想を沙世に話す。
興奮しながら自慢をする私に、沙世は呆れたような視線を向けた。
「レシピどおりに作って、まずいわけないでしょ。それが普通よ」
それは正論だ。
けれど、私が初めて自分ひとりで作り上げたお菓子だと考えると、その“普通”さえも奇跡のように思える。
祖母が不安げにキッチンのまわりをうろつき、何度も手を貸そうとしてきたのも事実だけれど。
「まあ、クリスマスのことを考えれば、亜美も成長したんじゃない?」
薄く笑いながらそう褒められて、少し自信をつけることができた。
「ブラウニーも作るんでしょ? そっちはどうなの?」
そう訊かれて、私は曖昧に首を傾げた。


