私に、沙世が長くあたためてきた気持ちをすべて理解することはきっとできない。
沙世の想いは、私が感じとって語れるほど、軽いものではないから。
けれど、かすかに震える肩を見つめていると、その気持ちが私にも伝染してくるような気がした。
泣いているのだろうか。
それを訊ねるなんて無粋なことはしないけれど。
「どうして私みたいになりたいって思うの?」
代わりに、静かに問いかけた。
私には、誰かに羨まれるような部分など無いのに。
こうなりたいと、憧れられる存在であるはずもない。
私に羨望の眼差しが向けられていたのはもうずっと前のことだ。
今の私が同じ視線にさらされる理由などない。
なにも持っていない、今の私では、誰かの憧れになることなど不可能だ。
自分が誇れる自分ですらないから。


