「“ハッピーハッピーバレンタイン! 絶対この恋成就させる★ 乙女のための勝負レシピ”
ああ、バレンタインね」


ファッション雑誌の特集ページのやたらと長いタイトルは、声に出して読まれると恥ずかしさが倍増する。

けれどこれも我慢しなければならない。

私は、バレンタインに参加するという大切な任務があるのだから。


「なに、須賀にあげるの?」


からかうような沙世の視線をかわし、曖昧な表情で肩をすくめる。


「須賀くんもだけど、バスケ部のみんなにあげるの。
桜井くんに頼まれちゃって。男の士気を上げるためには、マネージャーの手作りチョコが必要なんだ、って真剣に語られたら、断れなくて。男子にあげるなら当然、女の子にもあげるべきだしね」


男子部員に媚を売るつもりはないし、全員に渡していい顔をするわけでもないけれど、誤解を生まないためには男女に同じことをするしかない。


バレンタインに誰かに贈り物をすることどころか、バレンタインを意識すること自体、私にとっては初めてなのだ。

正直なところ、面倒だとしか思えない。

どうして雑誌でこんなに十数ページも割いてレシピ、ラッピング、渡すシチュエーション、服装、言葉、外見の手入れなどについて書かれているのか理解できない。