「あえて私が奈々といるときに、長谷川という名前に反応するか見ていたんでしょう?」
「やっぱりわかりやすすぎましたか。でも、その方法でしか確認できなかったんですよ」
あの、私のそばに奈々がいるときに、奈々のことを呼んだのも、薄くんだったのだ。
「空気入れを探してるなら、器具を管理してる私にまず訊くのが普通なのに、あえて奈々に声をかけた。それを変だと思わないはずがないじゃない? そもそも、ボールの空気だっていつも確認して、最適な量にしてるのは私なのに」
私が長谷川という名前に反応して振り向いたとき、彼は予感を確信に変えたのだろう。
薄くんが私に対してある意味特別な感情を抱いているということと、彼の父親のことに気づいてから、私もそれを確信にするために、行動をした。
長谷川嘉人、つまり叔父に連絡を取り、葬儀の参列者の中から薄という名字の人物を探してもらったのだ。
そして芳名帳に記帳した人の中に、一人だけいたのだ。
その名字をもつ父の学生時代の友人が。
比較的珍しい名字だったこともあり、その人物以外は考えられなかった。
けれど私がそれを彼に言うことができるほど、雰囲気は柔らかなものではなかった。
彼の中に、また強い感情がよみがえったから。


