「亜美、どうしたの?」
沙世が不思議そうな顔をしてこちらを見ている。
その手には、ココアの缶が握られている。
「寒すぎて疲れちゃった」
妙な言い訳をして、適当な笑顔でごまかした。
「あれだけ迷って、結局ココアにしたの?」
そして沙世がそれ以上訊く前に、話をすり替えた。
「やっぱりココアが一番好きだし」
「だったら最初からココアにすればよかったじゃない」
「だってー」
談笑をしながら歩くその足取りは、どうしてもぎこちなくなってしまう。
教室に戻るまで何度も、沙世にはわからないようにさり気なく後ろに視線をやる。
そこに、誰かがいるかもしれない。
私に対して、ある種の特別な感情を抱いた誰かが。
言い知れぬ恐怖が、私の胸を貫いた。


