男子の方の保護者のもとへ行くと、須賀くんの母親が私に向かって手を振っていた。
「こんにちは」
「クリスマス以来ね! うち、狭かったでしょ。祐輝も気が利かないから、粗相があったらごめんなさいね」
その言葉を否定しながらも、たしかにあの日、須賀くんだけは大変そうだったことを思い出した。
沙世に、これ以上落ちないところまで株が下がった、と言われていたし。
それでも、大切な人たちとはじめて過ごすクリスマスは、素敵な思い出だった。
「いえ、すごく楽しかったです。あの時は家を空けてくださってありがとうございました」
湯呑みを載せたお盆が傾かないように、小さく頭を下げる。
瞳を閉じればまだ、あの夜須賀くんが見せてくれたイルミネーションが瞼の裏で輝いている。
普通の高校生なら当たり前に体験していることでも、私はまだ経験していないことがいくつもある。
あのクリスマスは、そのうちのひとつだ。
きっとまだこれからも、私は“初めて”をたくさん繰り返していくのだろう。
その未来を歩く私のそばには、誰がいるのだろう。


