「よし! 全部できるようになった!」
追試の範囲のプリントの問題を、すべてなにも見ずに解けるようになった沙世の顔には、やっと笑顔が見られた。
シャープペンシルを転がして伸びをしたその表情は晴れやかだ。
「明日の追試頑張るね」
「生物は大丈夫なの?」
沙世が追試を受ける科目は、数Ⅱ、数B、生物である。
私が今までに彼女に教えた問題は、いずれも数学だ。
「生物は、解説見ながらやれば理解できる問題が多かったし、ヒロとか須賀に教えてもらったから完璧! 遺伝マスターって呼んでくれていいから」
沙世の嬉しそうな顔を見ていたら、私の気分も浮上してくる。
「数学はまだ少し心配だけどね。家に帰ってからまた一通り自分で解いてみる。
でもさ、正直な話、受験が心配。あたし全然数学できないし、特に数B。先生たちは受験教科を絞るなっていうけど、どう考えてもあたしが一年後に数Bの数列をすらすら解いてるとは思えない」
歓喜の表情は曇り、机の上で組んだ両手の間に顔を半分うずめている。


