飲み物でも持ってこようと、沙世に声を掛けてから部屋を出ると、そこにいた祖母にぶつかりそうになった。
祖母はトレイを持っていて、その上にはお菓子と紅茶が載っている。
「これ、お友達と一緒に食べてね」
階段を上る足音は聞こえなかったのに、と思ったけれど、きっと溢さないように慎重に運んできてくれたのだろう。
お礼を言って、そのトレイを受け取った。
先ほどの私の態度を責めるわけでもなく、なにかを追求するわけでもなく。
ただ、私の友人をもてなそうとしてくれた。
その祖母の姿に、いつかの母の面影が重なった。
琥珀色の液体にミルクと砂糖をたっぷり入れて、小さなティースプーンでかき混ぜる。
砂糖のざらつきがなくなってから、手で包み込むようにカップを持ち、そっと口をつけた。
甘く、優しい味と香りが私を満たしていく。
なぜだかそれに、温かな安心を感じた。


