「ありがとうじゃないって! 本気で心配してたんだからね」


「こいつ、高橋さんのことを心配しすぎてずっと気が立っててさ。俺に当たりまくってたんだよ」


須賀くんが大袈裟にため息をついてみせると、沙世がそれに噛みついた。


「あんただって心配でそわそわしてたくせに! だから待ってようって誘ってあげたのに、この恩知らずのハゲ!」


いつもの沙世はこんな風に声を荒げないし、言い合いをすることも面倒だとぼやいてしないだろう。

沙世をこんなに豹変させているのは自分なのだとしたら、なぜだか少し嬉しくなった。


須賀くんがまた言い返しているのを、片耳を塞いで沙世が私に向き直った。


「で、大丈夫なの?」

「うん、大丈夫。少し寝不足だったみたい」


本当はそれだけではないけれど、黙っていた。

沙世は私の瞳をじっと見つめてなにかを言いたそうにしていたけれど、結局それ以上は訊かなかった。